【2019年上半期】絶対に飲んでおきたい!「こだわりの蔵」のおすすめ日本酒5選

 蔵元の若返りや技術革新によって、日本酒がおいしいのは当たり前。だからこそ注目したいのが蔵の取り組みや思いが伝わる「ストーリー性がある酒」である。なぜこの5本を選んだのか? その理由をとくとご覧あれ。

28年ぶりに復活を遂げた蔵の渾身の一本

代表銘柄「よこやま Silver」
代表銘柄「よこやま Silver」

酒名:「よこやま Silver」
値段:1,490円(税別)
使用米:山田錦
精米歩合:麹50% 掛米:55%

蔵元の横山太三氏
蔵元の横山太三氏

蔵名:重家酒造(長崎県)
http://www.omoyashuzo.com

 2018年9月、長崎県の壱岐島に日本酒蔵・重家(おもや)酒造が誕生した。いや、誕生というより「復活」と言ったほうがいいだろう。もともと重家酒造の日本酒蔵は1924年に創業。惜しまれながら1990年に幕を閉じた。その後、重家酒造は本格焼酎のみ生産を続けてきたが、蔵元である横山太三さんの心の中には常に「日本酒蔵を復活させたい」という思いが消えずにいた。

 日本酒蔵を復活させることになったのは、ふたつの出会いがきっかけとなった。ひとつは「はせがわ酒店」社長、長谷川浩一さんとの出会いだ。「清酒の製造免許があるなら、なぜ日本酒を造らないのか」と言われ、横山さんのやる気に火がついた。

 もうひとつの出会いは銘酒『東洋美人』を醸す澄川酒造場の澄川宜史さん。理想の日本酒を追い求める中、ブラインドでティスティングをして、「これだ!」と思ったのが澄川さんのお酒だったという。その後、澄川さんの好意で、蔵でともに酒造りをしながら、澄川流の日本酒造りを徹底的に学んだ。そして2013年7月に出来上がったのが『横山五十』である。この銘柄に関しては、今もなお澄川酒造で造られている。2人の友情の深さを物語っているかのようだ。

 そうした経緯で、横山さんは地元の壱岐で蔵を復活。蔵が主とするのはフレッシュさが売りの生酒。そのため徹底した温度管理ができる最新の設備が揃ったハイテクな蔵となった。生産量を上げることを求めず、クオリティを重視。そうして出来上がったのが『よこやま』である。

 『よこやま』は横山さんが理想とする「一杯目に飲むお酒」というコンセプトにふさわしい、マスカットを思わせる香りがフワッと広がるエレガントな味わいが魅力。究極の透明感とはこの酒のこと。緻密に酒質設計された酒でなければ出せない洗練された味は、誰をも魅了する。おちょこよりもワイングラスで。芳醇な香りをより一層楽しむことができる。横山さんが長年求め続けた味がこの一本に。日本酒好きならぜひ飲んで欲しい一本である。

徹底した温度管理が出来る最新の設備
徹底した温度管理が出来る最新の設備

極上の酒米で造った「最高の日本酒」

代表銘柄「山形正宗 辛口純米」
代表銘柄「山形正宗 辛口純米」

酒名:「山形正宗 辛口純米」
値段:1,350円(税別)
使用米:出羽燦々(自社栽培100%)
精米歩合:60%

蔵元の水戸部さん(左)と酒米を作る方々
蔵元の水戸部さん(左)と酒米を作る方々

蔵名:水戸部酒造(山形県)
http://www.mitobesake.com/

 『山形正宗』を醸す水戸部酒造は、2018年4月に農業法人・水戸部稲造を設立。ある日、蔵元・水戸部朝信さんの頭に「酒米を作ってみたい」という思いが浮かんだ。

 酒造りに従事して20年、「さまざまな決め事を作り過ぎて、仕事にも人生にも遊びがなくなっているかな?」とぼんやり感じていた頃だった。ただがむしゃらに働くのではなく、仕事の中にも「遊び」が必要。パツパツに張った糸はちょっとの刺激ですぐに切れてしまう。糸は緩さを持たせることで、かえって耐久性が生まれる。それは仕事も同じこと。そこで水戸部さんは「人生は、遊びだ」をコンセプトに、前々から構想していた農業法人・水戸部稲造を立ち上げた。法人名の由来は水戸部さんの中学校の時のあだ名「イナゾウ」からきている。命名の理由も遊びがあっていいじゃないか。

 法人設立の大きな目的はもちろん酒米作り。といっても、ただ作るわけではない。田んぼの土質、標高、日当たり、水の入り方を考察し、個々の田んぼにあった栽培を行っている。2018年時点で自社栽培米の使用比率は30%。水戸部さん曰く、「100%ドメーヌ化をしようとは思っていない」そう。フランス語のドメーヌの直訳は区域、領域。酒造りにおいては米の栽培から製造、瓶詰を一貫して行うことを指す。水戸部さんの場合、銀座の寿司屋に各地からいい魚介類が集まるよう、雄町や山田錦はそれぞれの名産地から取り寄せたほうがいいという考えだ。稲作に関しては、山形だからこそ、山形で生まれた酒米・出羽燦々(でわさんさん)で勝負する。そんなところに水戸部さんの山形に対するこだわりが感じ取れる。

 水戸部さんの田んぼでできた酒米は、もちろん蔵の酒になる。できた日本酒の代表銘柄は『山形正宗 辛口純米』。旨口という言葉がぴったりの、米の旨味にあふれた穏やかな味わいで、どんな料理でもそつなく合う懐の深い酒である。常温から燗酒まで幅広い温度帯でさまざまな表情を見せてくれるのもまたいい。肩肘張らず、膝を長く突き合わせて飲める一本は、腹を割って話せる友人と一緒に飲んで欲しい。

それぞれの田んぼで出来上がる酒米の質が異なる
それぞれの田んぼで出来上がる酒米の質が異なる

会津で生まれた「一田一醸」の希少な日本酒

代表銘柄「会津娘 穣(じょう)」
代表銘柄「会津娘 穣(じょう)」

酒名:「会津娘 穣(じょう)」
値段:2,000円(税別)
使用米:五百万石(自社栽培100%)
精米歩合:55%

蔵元の高橋亘氏
蔵元の高橋亘氏(会津物語 写真:天羽優太)

蔵名:高橋庄作酒造店(福島県)
http://aizumusume.a.la9.jp/

 ワインでよく耳にするドメーヌとテロワール。いずれもフランス語で、ドメーヌ(domaine)とは区画、領域、テロワール(terroir)は土壌や気候を含むブドウの生育環境を指す。昨今、これらの言葉が日本酒でも使われるようになっている。それを体現しているのが『会津娘』で知られる高橋庄作酒造店だ。「一枚の田んぼからとれた酒米につき一本のタンクで酒を醸したい」。2018年、蔵元の高橋亘さんのそんな思いから、蔵のテロワール化へのチャレンジがスタートした。

 一枚の田んぼから一本のタンクの酒……、考えただけでも手間がかかることがわかる。高橋さんを駆り立てたのは、青々とした稲がなる夏の田んぼの風景だった。たかだか半径3キロ以内の田んぼでも、場所によって風の向き、稲の太さや高さ、根の張り方などが全く違う。だが、いざ収穫し、米粒になると、そうした生育環境は全く見えず、ひとくくりにされてしまう。せっかくの田んぼの個性に蓋をしてしまうのは、あまりにももったいない。田んぼごとに収穫した単一品種の米の個性を昇華したい。高橋さんの米に対する愛はとどまることを知らず、2024年には農業法人化を予定。ますます米作りにも拍車がかかりそうだ。

 そしてまたこんな思いもある。「今や日本酒はおいしくて当たり前。おいしいだけでなく、その土地の薫りがする、付加価値のある酒を造りたい」と高橋さん。その思いは2019年7月に形になる。田んぼは違うが、酒に使用する米、酵母、精米歩合は全て同一。高橋さんは「こうしたことを3~5年続けることで、田んぼごとの色が出てくる」と考察する。田んぼ違いの酒を揃えて、味の違いを楽しむ。そう遠くない将来、そんなマニアックな利き酒も楽しめそうだ。

 田んぼごとに仕込んだ酒は前述したように7月の発売。銘柄は『会津娘 穣』。味はもちろん、田んぼがある村名が入ったラベルを見るのも楽しみの一つ。これからの日本酒の新しい形を舌と目で味わいたい。

青々とした稲がなる夏の田んぼ
青々とした稲がなる夏の田んぼ

「時間」という名の蔵人が造る熟成酒の魅力を堪能

代表銘柄「琥刻6ヴィンテージ」
代表銘柄「琥刻6ヴィンテージ」

酒名:「七本鎗 山廃純米 琥刻」
値段:年によって値段が異なります
使用米:玉栄(滋賀産100%)
精米歩合:80%

蔵元の冨田泰伸氏
蔵元の冨田泰伸氏

蔵名:冨田酒造(滋賀県)
http://www.7yari.co.jp/

 昨今、日本酒の熟成酒に注目が集まり始めている。日本において、熟成酒は万人が日常的に飲むまでには至っていないが、今後もっと市場が拡大する要素を十分に秘めている。食が多様化した今、一般的な日本酒だけでペアリングをカバーするのは難しい。例えば香りが強烈なアジアの調味料やスパイス、クセのあるチーズなどは、熟成酒のほうがしっくりくる。そんな多大なる可能性を秘めた熟成酒に力を入れているのが、米の旨味をしっかり感じるボディ系※1の日本酒の代表格『七本鎗(しちほんやり)』を醸す冨田酒造である。

 ワインを扱う企業に勤めた経験がある蔵元の冨田泰伸さんは、時間をみつけてはフランスのワインの銘醸地を巡り、小規模なワイナリーで試飲をしながら“熟成”のおもしろさに魅せられていく。そしてまた、「米の旨味にあふれた骨太な『七本鎗』は、熟成に向くに違いない」とかねてから確信していたという。

 熟成酒はどんな技術があっても、お金があってもすぐに作れるものではない。そこには「時間」というお金では買えないファクターが必要となる。そう思った冨田さんは2010年から本格的に熟成酒に取り組み始めた。酒質は熟成がゆっくり進むよう、残糖度※2が極力低くなるように設計。酒は熟成の早い常温ではなく、温度管理が容易な冷蔵庫で貯蔵した。そして6年分のヴィンテージが揃った時点で『七本鎗 山廃純米 琥刻(ここく)』シリーズとしてリリースした。販売といっても全部を売り切らず、在庫が少なくなったら売り止め。そこには「ワインのように生まれ年を楽しめる酒になれば」という冨田さんの思いがある。『七本鎗 山廃純米 琥刻』の味わいは年度ごとに違う。「時を感じながら飲む」という熟成酒ならではの楽しみを味わって欲しい。

 現在、蔵では熟成酒を貯蔵するための地下の貯蔵庫を準備中。年間を通して、どのくらい温度や湿度が変わるかを検証中だ。また2013年からは酵母を無添加に。培養されたきょうかい酵母※3で酒質の安定を図るのではなく、あえてその時に出会った酵母との出会いで生まれた酒を楽しんでもらうためだ。一定の味ではないからこそ、年度ごとの味わいが変わり、熟成酒の楽しみはさらに広がる。

※1ボディ系=米の旨味にあふれる、しっかりとした味わいの日本酒。
※2残糖度=日本酒をはじめとするアルコール類は、酵母が糖をアルコールに分解することで造られる。発酵が進むほど日本酒に含まれる糖は少なくなる。含まれる糖が少ないほど熟成の速度はゆっくりになる。
※3きょうかい酵母=日本醸造協会で頒布している培養された日本酒やワインなどの酵母菌のこと。

地下貯蔵庫を準備中の蔵
地下貯蔵庫を準備中の蔵

日本酒初のヴィーガン認定で世界の日本酒マーケットに喝!

代表銘柄「南部美人 特別純米」
代表銘柄「南部美人 特別純米」

酒名:「南部美人 特別純米」
値段:1,500円(税別)
使用米:ぎんおとめ、他
精米歩合:55%

蔵元の久慈浩介氏
蔵元の久慈浩介氏

蔵名:南部美人(岩手県)
https://www.nanbubijin.co.jp/company/

 今のように日本酒が海外で注目される前から、足しげく海外に通い、自社の日本酒を持って現地のレストランに営業したという経験を持つ南部美人の久慈浩介さん。昨日まで東京にいたと思ったら翌日はイタリアなんてざら。とにかくフットワークが軽い。時代の風をキャッチする能力は随一。久慈さんの動きを見ていると、“日本酒の今”がわかると言っても過言ではないだろう。

 そんな久慈さんがまた新たなことを成し遂げた。それは「ヴィーガン認定」の取得である。ヴィーガンを一言で言えば、卵や乳製品などの酪農製品を食べない完全な菜食主義者のこと。またはちみつなどをはじめとする動物性の食品も口にしない。一見、無関係のように思えるヴィーガンと日本酒。何故、久慈さんはあえてヴィーガン認定を受けたのか、理由は2013年に取得したコーシャ認定(コーシャ:ユダヤ教徒が食べてもいいとされる清浄な食物)にある。

 ユダヤ人のみならず、ごく一般的な外国人もコーシャ認定されたものを購入するのを見るうち、久慈さんは「コーシャ食品を買う方々は、そこに食の安心や安全、純粋さを求める層。その中にヴィーガンという層がいて、ヴィーガンの認定もあることを知った」と言う。そんな時、アメリカのパートナー企業の副社長から「日本酒はヴィーガン認定とれないの?」と聞かれ、ヴィーガン認定の取得を決意。そして2019年1月、国内外初のヴィーガン認定を受けた日本酒となった。ヴィーガン認定を受けた日本酒は、海外輸出をメインとしたもの。

 ヴィーガン認定を受けた中で、最もすすめたい一本はIWCチャンピオンサケを獲得した『南部美人 特別純米酒』だ。ふくよかな米の旨味が優しいタッチで舌全体に広がった後、抜群のキレが次の盃を促す。常温、冷酒、そして燗酒と、あらゆる温度帯で違った表情を見せてくれる食中酒である。まさに「国境を越えて愛される酒」と言ってもいいだろう。

 久慈さんはヴィーガン認定を受けたことで、「安心、安全、純粋の“見える化”をすることで、日本酒に安心感を持ってもらいたい。そして今まで日本が好き、日本食が好きという人が主に飲んでいた日本酒を、言葉、宗教、思想の壁を越え、新たな飲み手を獲得する一歩につながれば」と願っている。また「日本を訪れるインバウンドに日本酒を購入してもらうきっかけにもなる」と話す。日本で提供される日本酒には、英語表記による商品説明がない。しかしヴィーガンマークがあることが保証となり、購入に至る可能性は十分にある。

 現在、ヴィーガン認定を受けた日本酒はまだ「南部美人」のみ。将来、多くの蔵がこのヴィーガン認定を受けることで、海外における日本酒の購買層が広がるように思う。久慈さんはその扉を開けた最初の蔵元となった。

※IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)チャンピオンサケ:世界最大規模とされる酒類のコンペティションの日本酒部門の最高賞

日本酒では国内外初の「ヴィーガン認定」
2019年1月に取得した「ヴィーガン認定」、なんと日本酒では国内外初の認定

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