【連載:イケメン蔵元】新生・山陽盃酒造の夜明け

 2018年11月8日、銘酒「播州一献」(ばんしゅういっこん)を醸す山陽盃酒造の蔵が火事で半焼した。火事の現場に立つ壺阪さんは何を思うのか? 彼の目は、しっかりと「未来」を見据えていた。

火事は思い出も歴史ある蔵も奪った

 別棟にある麹室を出て、階段を下りている途中、黒煙が目に入った。

 「火事だ!」

 慌てて消防署に電話するも、長期に渡って乾燥した日が続いたことが災いし、20分後には見たこともない高さの火柱が上がった。2018年11月8日、午前10時30分、山陽盃酒造の敷地の約半分を占める蔵は火事により消失。明治、大正、昭和と3つの時代に増築を重ねてきた歴史ある蔵だった。

 「何とかせなあかん」

 山陽盃酒造の専務・壺阪雄一さんの頭をよぎったのは、蔵を失った悲しみよりも、「明日からどうやって蔵を立て直していったらいいのか」という思いだった。

 「いやー、眠れなかったですね。丸二日間は眠れなかった。9月末から酒造りも始まって、さあ、これからという時の火事でしたから。でも酒の発酵は人の力では止めることができない。なので火事の翌々日には、もう酒を搾っていました」

壺阪雄一さん

 そう、火事が起こったのは、まさに造りの最盛期だった。火事直後、壺阪さんは燃えなかった半分の蔵で酒造りを続けていた。慌ただしい中、すぐに酒造りができたのは、酒販店をはじめとする全国の有志がボランティアとして訪れ、がれきの撤去や灰まみれになった蔵を掃除してくれたからだ。応援は海外からも届く。台湾のインポーターが、大きな布に応援メッセージがいっぱいに書かれた旗を持って、わざわざ蔵に駆けつけてくれたのだ。その旗は仕込み蔵の壁に掲げられていた。まるで蔵を見守るかのように。

 「こういうことがあって、僕は本当に人に助けてもらいながら生きているなと改めて思いました。同業者、酒販店、酒造組合の皆さん、そしてうちの酒を愛してくれる人達には、“感謝”という言葉しかありません。彼らにもし何かあったら、今回僕が助けてもらったように力になれる存在でありたいですね」

仲間がいたから今の自分がある

 蔵の主要銘柄「播州一献」のボトルネックについている“感謝”と書かれた札に、壺阪さんをはじめとする蔵の思いが見て取れる。人生の一大事とも言える最中だというのに、まず人に感謝する。こうしたところからも、壺阪さんの人となりが良くわかる。

 実はこんなエピソードがある。火事直後のクリスマス・イブの日、私は些少のお見舞いを持って壺阪さんを訪ねた。蔵を出る際、慌てて壺阪さんがくれたのは自著のヒットを祝うメッセージが書かれたオリジナルラベルの一升瓶だった。時間の余裕もない繁忙期、しかも火事で蔵を失ったばかりなのに、人を思いやることができる壺阪さんの優しさに心からの感動を覚えた。優しさは強さにも通じる。壺阪さんならきっと、この困難を乗り越えていける。感動と同時に、そんなことも思った。

壺阪雄一さん

 「もう燃えてしまったものは仕方がないですよね。元に戻らないんだから。気持ちを切り替えて、燃えてしまったこの場所をどう再生しようかと考えています。僕の代でこの先300年続けられるベースを作れたらと」

 具体的には今のニーズに合った作業効率のいい新しい蔵の設立ということ。そして「さらなる酒質向上」が壺阪さんの目下の目標である。

 「奇跡的に蔵が半分残ったのは、やはりご先祖様と松尾さま(松尾大社)が守ってくれたんだと思うんですよ。だからこそ頑張らなきゃいけない。目指す酒質ですか? やっぱり自分で飲んで“うまい”と思う日本酒を造りたいですね。最初の一杯で終わらず、長く飲み続けられる酒がいい。酸味とか甘味が特別に突出してなくて、トータルバランスがいい、飲み飽きしない酒が理想です」

 飲み手からすれば、壺阪さんが理想とする酒は、既に出来上がっていると思うのだが、彼はまだ納得しない。納得してしまえば、そこで成長が止まることを知っているからだ。

 がれきの撤去は既に終わった。壺阪さんの新たなるステージが始まる。

酒蔵紹介

 山陽盃酒造株式会社
 兵庫県宍粟市山崎町山崎28
 0790-62-1010(蔵案内は現在受け付けておりません)
 info@sanyouhai.com
 代表銘柄:播州一献

イケメン蔵元紹介

山陽盃酒蔵 壺阪さん

 壺阪 雄一さん(代表取締役専務 兼 杜氏)
 交際ステータス:独身(2019年2月時点)
 好みのタイプ :本醸造のように親しみやすいキュート系
         「親しみのある人が気兼ねなくていいと思います☆」

寄付先について

 西兵庫信用金庫
 夢前(ユメサキ)支店 支店番号016
 普通 0255440
 姫路酒造協同組合 代表理事田中康博
 (ヒメジシユゾウキヨウドウクミアイダイヒヨウリジタナカヤスヒロ)

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