魚沼良いとこ一度はおいで。八海醸造が追求する酒造りに迫る!!【前編】

 ファッションアドバイザーMBです。書籍・メルマガ・オンラインサロン・メディア出演など様々な形でファッションについての情報を配信しています。感覚ではなく視覚効果や人間心理など論理的かつ科学的に、ファッションの効果と実践方法を提供しています。

 さて今回、「わん酒」で執筆することになりましたが、私には日本酒の知識がほぼありません。しかしながら親戚に酒蔵を持ち、酒どころである新潟出身(今でも新潟に別宅を持っています)。日本酒と距離が近く触れることのできる立場であること、また日本酒の知識がないからこそ専門的すぎない等身大の言葉で伝えられることをメリットとし、記事執筆を進めたいと考えております。

 「わん酒」には専門的な情報が多数ありますが、ここは初心者歓迎のコーナー。私とともに日本酒を楽しみながら少しずつ知識をつけていきましょう。

 さて、随分雪深いところにやってまいりました。こちらは新潟県の酒どころ南魚沼でございます。

 新潟県は横にも縦にも面積が広く、いくつかの地域に分かれています。私の住まいは海沿いの新潟市、雪がさほど降らず首都東京と大きくは変わらない気候となっている、県内でも過ごしやすい地域です。他方こちら南魚沼市は、山沿いの地方であり日本有数の豪雪地。新潟市民からすると、南魚沼市は同じ県内でありながら、どこか他県であるような感覚があります。そのくらい気候も風土もまるで違うもの。私自身も「里帰りで懐かしい」というより「旅行に来た」気分で取材をさせてもらいました。

 新潟出身者ならではの記事を、ということで今回取材先に選んだのが「魚沼の里」。日本酒好きにはおなじみすぎるくらいの定番ブランド「八海山」で知られる八海醸造株式会社が立ち上げた総合文化施設です。南魚沼の美味しい水で作られた蕎麦や日本酒が楽しめるだけでなく、日本酒に合わせた食品や雑貨なども盛りだくさん。さらには、おしゃれなビール工房や、都内でも有名なアイス屋さんが出店していたりと、良い意味での「カオス」感があります。

 もちろん、八海醸造さんの見学もしたのですが、せっかくなので、日本酒だけはでなくこの「魚沼の里」全体を紹介していきます。

魚沼の里

 さまざまなお店が軒を連ねる「魚沼の里」。最初に立ち寄ったのはお蕎麦屋さん「長森」。

蕎麦屋「長森」内部1

蕎麦屋「長森」内部2

蕎麦屋「長森」内部3

 この日は東京から車で来たので、ロングドライブにつき少々顔が疲れておりますがご愛嬌ということで。

蕎麦屋「長森」蕎麦の画像

 濃いめのオツユを使っていただく蕎麦は絶品。蕎麦は水がうまくなければいけません。打つ・茹でる・締める、といった蕎麦作りのあらゆる工程において水が強く関わっており、まさに蕎麦の味を左右するものです。山あいの地域である南魚沼は豊富な水資源があり、昔から蕎麦の名店が多いことで知られています。

やたら漬け

 今回は蕎麦だけでなく、「やたら漬け」という麹を混ぜて発酵させたお漬物もいただきました。塩っけが少なく爽やかな味付け。これは、お土産として買えるようです。「やたら」とおいしいのでおすすめです。

蕎麦屋「長森」内部4

 古民家を改装したような雰囲気のある造りは、エンターテイメント性も抜群。今にも崩れそうな古びた店の狭いカウンターで食べるお蕎麦も情緒があって良いですが、ここはまるで高級旅館に来た気分。接客も丁寧でホスピタリティも高い。海外のお客様には特に喜んでもらえそうです。

蕎麦屋「長森」内部4

 さて、やって来たのは本命、清酒「八海山」の生まれる酒蔵です。そびえ立つ大きさを画像からも感じられるでしょう。クラシカルな酒造りをする場所とは到底思えないほど、近代的なデザイン。コンクリート打ちっ放しで現代アートの美術館みたいです。

 まずは麹室(こうじむろ)の取材から。

八海醸造麹室

 ご存知の通り、日本酒は米からできています。種麹と呼ばれる菌を米につけ、繁殖させます。ここでは、米に胞子が均一に付着するよう、天地返し(※1)をしてほぐす作業を拝見しました。室温33度ほど(午前中の作業では40度)の中、8名の方が山盛りの米の中に手を入れて作業をします。前段階である洗米や蒸しなどの作業は機械も使いますが、ここはオールハンド。蒸した室内でダイナミックに動いているのがとても印象的でした。

 「お酒の味に一番影響する部分ですので、全て人の手で行います」との解説。

 考えてみれば、お酒は生き物の力でできています。水も米も、年や気候により状態は異なる上、加えて麹は微生物です。毎度、微細に性質や反応が異なるわけですが、酒造りはそれを知りコントロールすることを考えねばなりません。

 生き物は個体によりさまざまで「不安定」ですが、されどお酒自体の品質は「安定」させねばならない宿命があります。この矛盾の解消こそが八海醸造の求めている本質かと取材の中で感じました。

 お客様に出したお酒が安定していなかったら、「八海山」というお酒の枠組みの中から外れてしまっていたら、それは商品として不完全です。しかしながら、再現性・均一性・安定性といったところを求めようとするお酒の原料は、実に不安定な生き物で構成されているという難問。これを解決するため、八海醸造は「機械は人が使うものである」という至極当たり前の論理を意識されているように思いました。

 コンピューターで制御することもできるでしょう。実際そうした酒造りを行う蔵もあると言います。しかし不安定な生物を管理するには定量的に計りきれないこともあります。八海醸造は、まだまだコンピューターで計りきれない定性的な判断は人間が行い、必要であれば機械を使うという仕事をされていました。

 大量生産と安定性という課題の中で機械を否定するのでは決してなく、機械の使い方を選ぶということ。日本だけでなく海外でも楽しめるだけの「量」を担保せねばならない現代的な酒造りのあり方と、味を守る昔ながらの職人的な気質が、見事に結実しているように思えました。

※1 天地返し:上層と下層が均一になるようにかき混ぜること

八海醸造麹室の様子1

 さて、ほぐす作業の中で、人の手で天地返しをして蒸米の表面水分を取り除いています。蒸米に付着した菌があるわけですが、蒸米の表面に水分が残っているとどうしても外側に菌糸を張るだけで終わってしまうそうです。そこで米の水分を取り除くことで菌糸が米の内側まで食い込むようにしているわけです。

 こうして作業が終わると、最終的には山にして包んだ状態となります。

八海醸造麹室の様子2

八海醸造麹室の様子3

八海醸造麹室の様子4

 さて、ここで原料である米についても解説いただきました。

八海醸造で使用する米

八海醸造とMB

 米にはうまみとともに雑味があります。澄んだようなクリアな味わいを作るためには、米の雑味となる部分を削る必要があります。ここでは、玄米から削った状態までをいくつかに分けて、状態の変化を見ることができました。「吟醸」や「大吟醸」などの名称は、この削った量で決まります。

 米を削るのももちろん時間と手間がかかります。割れないように数十時間かけて削っていくため、コストもかかります。吟醸・大吟醸などで値段の差があるのもうなずけます。また、味わいは削りきるほどにクリアとなり、香り高いものとなるそうです。良酒は水のようだと比喩されますが、まさにそれですね。削りきり、クリアになるほど澄んだ酒となり、水に似るという理です。

八海醸造の日本酒の香

八海醸造の日本酒

 ここでしぼりたてのお酒を利き酒……とはいかず、匂いだけ(私、運転してきましたので)。なかなか飲めない逸品ですがグッと我慢。

八海醸造の原料処理室1

 酒造りの順番は逆ですが、続いて原料処理室を拝見しました。原料である白米を処理する場所ですね。白米を洗米して水に浸し、その後、蒸してから放冷します。

 ここでも先程と同じように、「人と機械」の関係性が解説されました。米の調子は水の吸い方など、その年によって大きく変化します。ですから、まず試験米として人の手で研ぐなどして、どのような状態かを担当者が判別してから機械を使って大量に処理します。量産をするうえで機械を使うことは必然ですが、全てを任せるのではなく、人の手を一度介するあたりに、安定した酒造りの難しさが窺えます。

八海醸造の仕込み部屋

八海醸造の仕込み部屋の看板

 さてこちらは仕込み室。写真では伝わりにくいかと思いますが、広大な敷地を使っています。酒母(※2)や水、麹、蒸米をタンクで仕込むことで、最終的に「醪(もろみ)」となります。

※2 酵母を大量に培養したもの。「酛(もと)」とも言われる。

八海醸造の仕込み室1

八海醸造の仕込み室2

 最後は圧搾室。できあがったもろみを圧搾して、酒と酒粕に濾し(こし)分ける工程ですね。これでひとまずお酒が完成するわけです。

八海醸造の圧搾室

 「できあがったものが全てなんです」

 複雑な工程を踏み、人や機械の関係性など、苦労や努力を重ね、そして意匠(いしょう)を凝らしているのは事実ですが、彼ら八海醸造は、こうした工程よりも何よりも、「出来上がった製品が全て」としています。

 最終的にはお客様の口が判断するものであり、「今年もおいしい」と思われることが全てであると。機械を使おうが、人の手を使おうが、工程がシンプルであろうが、複雑であろうが、最終的には「製品が全て」。そう断言するあたりにモノづくりの姿勢が込められていました。

 さて酒蔵の見学はここまで。

 しかし面白いもので、酒蔵における真摯な酒造りの姿勢を知ると、いつも飲んでいる八海山の味が更においしく感じられるものです。単純極まりない(笑)。

八海醸造の玄関

 今回の取材で得られたのは、「安定性の追求」。我々の舌は我々が思う以上に微細な差異を捉えてしまうものです。わずかに盛られた隠し味を見つけ出せるように、「うまさ」とは驚くほどこまやかで鋭敏な感覚の元、判断されています。

 そして自然の力や生き物の力を借りて造る「酒」は、味を安定させることが何より難しい。我々が持つ繊細な感覚器官が「あれ?今年のお酒はなんだか雑味が多いな」「八海山ってこんな味だったっけ?」と酒の不安定さに気がついてしまうでしょう。

 そうしたことがないように、八海醸造はこだわりを持って安定性の確保に努めています。「今年もおいしいね」そういった声が聞けるように。

 「安定しておいしい」

 化学調味料や機械的なモノづくりの中で生きている我々には、当たり前のようにも感じてしまうことですが、生き物を相手にする酒造りにおいて、これがいかに難しいことかを知りました。プリミティブでありテクニカルである八海醸造の酒造り。生き物なのに安定させねばならない、という大いなる矛盾性の追求の中から生まれたものであることを頭に浮かべながら、今夜も特別本醸造(※3)の「八海山」を飲んでみることにします。

 さて八海醸造取材、後半は文化施設「魚沼の里」についてさらに語ります。次回もお楽しみに。

 皆、魚沼においで!!!!

※3 今回紹介した蔵は、特別本醸造酒や普通酒といった定番酒を主に製造している「第二浩和蔵」。大吟醸酒や吟醸酒などの高級酒は、本社にある「浩和蔵」と「吟醸蔵」で製造している。今回取材した「第二浩和蔵」のみ、週1回蔵見学を受け付けている。

http://www2.uonuma-no-sato.jp/kura-kengaku

撮影:細野透子(わん酒・プロデューサー)

MB公式サイト KnowerMag

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