新潟の日本酒の魅力! 沁み入る美味しさはどこからやってきたのか

 「新潟」というと頭に浮かぶ言葉は「米どころ」や「酒どころ」。日本酒を買う際に、おいしいという安心感をもって新潟の銘柄を手に取る方もいらっしゃるでしょう。酒造りの歴史と、新潟の風土、そして人気の秘密を考えてみました。

ふはあ......っ

 がらりと戸を開けて暖簾(のれん)をくぐると、「お帰りなさーい!」と店の奥から声がかかる。カウンターに座れば、朝採ったばかりの山菜を使った小鉢が目の前に置かれ、割烹着姿のママが一升瓶をもってやってくる。

 たぷたぷたぷ.......と注がれる液体に、吸い込まれそうになって思わずひと口。

 「ふはあ...っ」と、一日の疲れや思いがすーっと軽くなっていく。

 ――若い頃に飲んでいた日本酒は、「楽しむ」という感覚がなく、数あるお酒の種類のひとつという認識しかありませんでした。しかし、東京から新潟の長岡まで、仕事のために17年間も通うことになり、折々地元でいただく「肴(さかな)と日本酒」の組み合わせの妙に納得。私は新潟の日本酒にすっかり魅了されてしまいました。

 「なぜ新潟の日本酒はおいしいのだろう?」とあらためて気になり、新潟の酒造りの歴史や、実際に現地で感じたことを思い起こしてみました。

割烹着、グラスにお酒が注がれている

日本酒は甘いもの?

 ひと昔前の日本酒といえば「甘い」の一言に尽きました。だいぶ昔のことになりますが、弔問の際に、お清めの塩と一緒に「ワンカップ酒」をいただいたことがありました。最近は、会葬御礼としてお酒が配られることは少なくなったかもしれません。それは清酒とはいえ、甘い味醂(みりん)のような日本酒でした。

 なぜ甘かったのでしょうか。諸説あるのでしょうが、やはり当時の日本人の嗜好がそうであったのでしょう。戦後の物資不足の影響もあって、まだまだ甘いものをひたすら欲していた時代だったのだと思います。

 私が学生だった頃(成人後ですが)、指導教授と学生達が研究室に集まって、300円程度の会費でホットプレートを囲み過ごすことがよくありました。当時呑んでいた記憶のあるお酒は、ムッとしたきつい匂いのする芋焼酎、ウイスキー、高価で買えなかったビールの代わりのホッピー(今でこそプリン体ゼロで人気ですが、かれこれ40年近く前からホッピーは存在していました)、そして日本酒。

 私は、生意気なことに、「甘い日本酒は嫌だ」と言い、当時の日本酒の中では辛口であった、兵庫の「剣菱」という銘柄の一升瓶をよく抱えていました。

 そして研究室の書棚の奥には「久保田」というラベルのついた秘蔵酒が入っていたことを今でもはっきりと覚えています。指導教授の名字と同じ銘柄でした。その頃からだったでしょうか、徐々に甘口よりすっきりとした辛口の日本酒が、一般的に好まれるようになってきたような記憶があります。

塩辛と日本酒
塩辛で一杯

室町時代から酒造り

 新潟では、500年近くも昔の戦国時代から酒造りが行われていたそうです。例えば長岡の「吉乃川」。吉乃川酒造の酒造りは、天文一七年(1548年)創業とのこと。さかのぼること471年も昔、室町幕府の世に始まったのです。後に上杉謙信となる長尾景虎が、春日山城に入った年です。これは清酒を作っている蔵の中では、茨城の須藤本家、秋田の飛良泉本舗、先にあげた兵庫の剣菱酒造、滋賀の山路酒造に次ぐ、全国で5番目の古さです。

 蔵の敷地の中を、江戸から佐渡に至る旧三国街道街道が通り、その一帯の酒や味噌、醤油などの醸造所がならぶ「摂田屋」という地域は、天領とされていました。どんなに偉い武将でも、そこを通るときには馬をおりなければならなかったということです。

 このように、新潟には長い歴史を持つ蔵がたくさんあります。干ばつや台風、豪雪といった天災に見舞われ、酒造りを制限された年もあったでしょう。しかし、さまざまな障害を乗り越えて、現在も新潟県内の100軒近い蔵で日本酒を醸造しています。

摂田屋 サフラン酒
江戸時代から続く醸造の町摂田屋の「サフラン酒」

「淡麗辛口」へ。新潟の日本酒、ついに出番到来

 昭和中期になって、それまで好まれる傾向にあった甘い日本酒よりも、べとつきのない、さらっとした淡麗で辛口の日本酒が多く造られるようになりました。これは、酒造りに欠かせない水が、新潟の山に積もった雪が解けた水で、砂礫(されき)※1層を通して濾過され、比較的短時間で伏流(ふくりゅう)※2してきたために良質な水が多いこと。そして酒造りに向いたお米として、「山田錦」以外に開発された「五百万石」や「越淡麗」という新潟のブランド米を使用することで、淡麗辛口の酒が造りやすかったからでしょう。

 また、野菜や魚中心の淡白な和食の食生活から、肉類の多い洋食や、砂糖をしっかり使った濃い味付けの和食などにシフトしたため、それにあう「淡麗辛口」の日本酒が好まれるようになったことも転機でした。こうして、「淡麗辛口」が日本酒ブームの一翼を担うようになります。古くからの日本酒ファンの方には、「越の三梅」という言葉がなつかしく思えるのではないでしょうか。「越乃寒梅」や「峰乃白梅」、「雪中梅」と、「梅」のついた銘柄の日本酒がプレミア付きで売られていたこともありました。

※1:砂や小石
※2:地上の流水が、ある区間だけ地下を流れること

山と田んぼの風景
南魚沼の山々と田んぼ

「淡麗辛口」だけが新潟の日本酒ではない

 ところが、2000年代頃になってそれがまた少し変わってきました。デザートのように甘いお酒、和食以外の肉、バターソースやオリーブオイル風味の魚類・甲殻類にあうお酒、アウトドアで楽しむためのお酒、シャンパンのようなスパークリングなどをはじめとした、いわゆるニュータイプの登場です。

 たとえば次のような日本酒です。いままで「日本酒はちょっと」と敬遠していた方にも、受け入れられるものがあるかもしれません。機会があればぜひ試してみてください。

加茂錦 荷札酒

 加茂錦酒造(三条市)
 若い20代の杜氏が酒米や精米度、酵母、手法を変えて、甘みや酸、芳醇さなどそれぞれに特徴あるバラエティ豊かな純米大吟醸を醸しています。ラベルには荷札が使われており、そこにそのお酒の原料や特徴が書かれています。「今度はどんなお酒だろう」と、呑む側も楽しみなデザインです。

村祐

 村祐酒造(新潟市)
 社長(村山健輔氏)が、22歳の若さで初めて仕込んだお酒が全国の鑑評会で金賞を受賞。それに満足することなく、飲み手を楽しませる酒造りに専念されています。いくつか種類がありますが、いずれも上品な甘さをもつ和三盆糖をイメージした酒造りだそうです。「甘いお酒がこれほどまでにおいしかったのか!」と思わされたお酒です。

北雪 大吟醸『NOBU』
佐渡産越淡麗 精米歩合40%

 北雪酒造(佐渡市)
 世界中で展開する高級レストラン「NOBU」のオーナーシェフである松久信幸氏が、北雪酒造の日本酒に惚れ込み、熱望したことによりコラボが実現。フルーティーで香り高く、繊細な味わいは、世界各地の「NOBU」を訪れる美食家セレブリティたちを魅了しています。佐渡島から世界へ羽ばたいた、ロマン溢れるお酒です。

久保田 雪峰
純米大吟醸・山廃仕込み 新潟県産米100%使用

 朝日酒造(長岡市)
 「久保田」という銘柄が有名な朝日酒造。このお酒は、海外でも有名なアウトドア用品メーカーのスノーピークとのコラボにより、「四季の自然を楽しみながら、気心が知れた仲間と日本酒を酌み交わす」というコンセプトで開発されたそうです。深い味わいが、バーベキューなどのアウトドア料理に良くあいます。また、冷たくしても、温めても、季節を問わずいろいろな温度で、それぞれに風味を楽しめるのがアウトドア向き。グッドデザイン賞2018の「グッドデザイン・ベスト100」に選出されたスタイリッシュなボトルです。

COWBOY YAMAHAI 山廃純米吟醸原酒

 塩川酒蔵(新潟市)
 肉料理にあう日本酒をコンセプトに開発されたお酒。きっちりとした酸と甘みや旨味がステーキによくあいます。

Fisherman Sokujo 速醸純米吟醸

 塩川酒蔵(新潟市)
 日本酒は魚介類には基本的にあいますが、こちらは質の高い白ワインのようなフルーティーさと香りで、さらにカニやエビといった甲殻類との相性が良いです。

日本酒の瓶とグラス 荷札酒
加茂錦 荷札酒

技術と歴史、そして肴

 このように新潟の酒造りは、「淡麗辛口」から新しい嗜好のものへと、変遷をとげてきています。

 こうした進化が可能であったのも、古くから培われてきた酒造りの技術と歴史、蔵人の熱意があればこそ。また、忘れてはならないのは、米どころの日本酒造りに向いたお米、軟水、厳しい冬の寒仕込みや雪中保存といった酒造りの技術と環境。さらに日本海の魚に加えて、野菜やきのこなどの新鮮な食材が豊富に揃っており、酒の肴(さかな)にも恵まれています。

 これらのうち、どれが欠けても、「新潟で飲む日本酒のおいしさ」を作りあげることはできないといえます。

新潟の山菜
郷土の山菜

そして今宵も...

 このような新潟の歴史と風土に思いを馳せつつ、一献。盃やグラスを傾けてみてはいかがでしょう。

 きっといつもの日本酒が、さらにおいしく、味わい深くなることでしょう。

新潟、えごのり
郷土の肴、「えごのり」

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